11月3日:鈴鹿8耐参戦レポートその2〜なんちゃってチャリダーにも五分の魂〜


スタート前にポーズをきめる。
警備員用の蛍光反射ベルトは旅行の必需品だ。

   今回のレースでやりたかったのは、これまでの自己最高1日走破記録を更新するということだった。すなわち180km以上を走るということだ。

 僕が「なんちゃってチャリダー」を名乗る理由はいくつもあるのだが、その一つがスポーツとして自転車には乗らないということである。だいたいスポーツがロクにできないものだから自転車に流れてきたのに、なんでその自転車でタイムを競ったり他人と競争したりとしんどい思いをしなければいけないのか?僕はあくまで旅行者であって、アスリートではないのだ。サーキットみたいな箱庭の中をグルグル走ってもたぶん面白くないだろう、という考えが自分の中にあった。

 ではなぜ今回参加しようと思ったのか?それはアスリートではなく旅行者としての自分の走破能力が知りたかったからだ。1日あたり180kmという走行距離は過去2度記録しており、 最初の記録は1996年の夏に、八王子から房総半島への旅行で、なんとママチャリ(変速なし)によって記録している。2回目の180kmは2000年のゴールデンウィークに日光から東京まで、これはマウンテンバイクによって記録している。

 旅行用自転車の最高峰であるランドナーにたどりつき、かつママチャリで旅行していた頃に比べて格段に自転車に関して鼻がきくようになった今ならば、もっと走れるはずだと思った。信号がなく、クルマのいないサーキットは、新記録への挑戦に申し分ない舞台だったのである。スポーツとして自転車に乗っているのではないとはいえ、自分なりの、自分だけの勲章が欲しかった。つまり、初めてママチャリで大遠征した頃の気持ちに戻ったわけだ。それに、アスリートではないと言ったが、アスリートの世界をちょっとだけ体験してみたいという気持ちもあった。
 

フロントバッグにつけたエンブレム。
青地にオレンジの縁取りで黄色の文字。
よく目立つ。ピット前を走るとき「え?東京から自走?」
「自走だってよー?」というヒソヒソ声が聞こえた。

 信じられない、通常ありえないこと、それでいて「だからなんやねん」というショウモナイことを自転車でやってのけ、かつ自分の走破能力の限界に挑む、これこそが今回の参戦のいちばんの目的だった。だからこその東京からの自走であり、自転車以外の斤量を背負っての参加だった。これが、たとえば輪行しての参加だったり、自転車に荷物を一切積まずに走ったり、走行距離は二の次で「愉しむこと」優先だったりしたら、はっきりいって自分がレースに参加する意味はほとんどなくなってしまう。

 だから、この日かぎりのイベントをワイワイ楽めればそれだけでいいジャンという気持ちはなかった。今回はたまたま知人も一緒に参加することになったが、僕が参加を決めたのは1年近くも前の話だ。一人だろうと知人と一緒だろうと、自分の目的に一切の揺るぎはなかった(こわい人)。旅行の最中は100%の力でペダルを回すことはないのだが、レース中は常に妥協なくペダルを回していく心づもりだった。頭にはヘルメットをかぶってはいたが、実はハチマキにローソクが2本立っていたかもしれない(笑)。

 スタートしてからしばらくは集団走行が続くが、やがて列は縦に伸びていく。もちろん僕は出場選手の中でのスピードはかなり遅いはずなので、列の後ろの方に下がっていく。無理してついていくようなことはしない。無理はしないが、しかし楽をすることもなく、常にペダルを回転させ続ける。

 今回の旅行にはGPSを持ってきているので、レース中も装着して走っていた。GPSは自分の走った軌跡を画面に表示させることができるのだが、コースを一周すると画面上にコースのレイアウトそのままの軌跡と自分の現在位置が表示され、コースの中のどの部分を今走っているのかが分かって面白く、かつ飽きがこない。

 数百キロにおよぶ旅程全体のどのへんに今いるのかをリアルタイムで見ることはふだんの旅行中はできないのだが、サーキット内にかぎればそれが可能になる。もうすぐコースの後半か?おお、怒濤の下りの始まりだ、などというのがあらかじめ分かるのである。しかし、何周もしてしまえばコースの概略は体で覚えてしまうので、あんまり意味はなくなっていく。

 スタートして1周もしないうちに、GPSではなく、いつも装着している自転車メーターがうまく作動していないことに気づく。電池は入れ替えたばかりだから、きっとセンサーとマグネットが離れすぎてしまったのだろう。何たることか。この1周が終わったらピットでちゃんと位置を直しておこう。とんだロスだ。

 1周目からいきなりソロのピットに入り、フロントフォークのセンサーとスポークのマグネットの位置を調整する。これでよし、と。距離表示がわずかながらも積算されていたので、ここで一度リセットしておく。ここから先は、メーターに表示された距離に1周5.8キロを足した数字が実際の走行距離となる。今はいいけれど、クタクタに疲れてからは5.8を足すだけでも頭が回らなくなりそうだった。何たる失策。そして気を取り直して走り始める。

 しばらくして、突然後方から「ぎゃりぃぃぃぃぃぃぃぃ、しゅごぉぉぉぉぉぉ」という聞いたことのないような音のカタマリが飛んできた。よく聞けばそれはタイヤの回転音と、タイヤと路面の摩擦音だ。む?と思って横を見ると、先頭集団が早くも我々を周回遅れにして抜き去ろうとしているところだった。次々と先頭集団が横を走り抜けていく。その集団の走行音たるやすさまじく、周りの非アスリート選手たちは驚き、そしてあっけにとられた表情でその音のカタマリを見送っていく。いったい時速何キロぐらい出ているのだろう?

 スピードこそちがえど、僕も目一杯ペダルを回していく。旅行のときは下り坂では脚を休めるのだが、自分の記録に挑戦している今日だけはちがった。下りではフロントはミドル、リアはトップに入れ、猛烈にペダルを回転させて加速をつける。…おお、時速48kmか。この下りではこの速度を保つことを目標にしよう。他にもこの直線では何キロ、このカーブでは何キロと、自分なりの維持目標を走りながら決めていった。ホームストレッチの長い登りでは、最初は20キロを維持していた。ホームストレッチ直後のカーブとシケインでは15キロ。

カーブを疾走する様子はこちら

 スタートしてから約1時間後、5周したところでソロのピットに入り最初の休憩をとる。


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