8月9日:6年ぶりのパンクとロードレーサー。

走行距離:64km
ルート :高山〜古川〜天生(あもう)峠〜白川郷
宿 泊 :民宿「文六」


 7時起床。朝食を食べて8時出発。高山は予想外に収穫の多い町だったが、今日は今回の旅行のメインである(というか、メインだらけなのが今回の旅行)世界遺産の白川郷へ向かう。しかも泊まる民宿があの合掌造りなのである。

 高山から国道41号を北上する。ほとんど平坦な道路で、スピードが上がった。ペダルがまわるまわる。しかし快走する僕をはるかに上回るスピードで、ロードに乗った中年男性が追い抜かしていった。追い抜かれ際にお互いあいさつを交わす。ロード男は赤・白・青のトリコロールカラーのレーシングジャージを着込み、肌は浅黒く日焼けしており、本格的に自転車に乗り込んでいることはその体つきからも明らかだった。

 道の駅「アルプ飛弾古川」で、トイレ休憩。トイレの前の駐車スペースに、先ほど追い抜いていったロードレーサーが立てかけてあったが乗り主の姿は見当たらない。トイレを済ませ、再び先行する。きっとどこかでまた追い抜かれることだろう。ランドナーで荷物を積んでいる場合、最高速度で25キロ、巡航速度なら20キロ以上出せればいい方だ。ロードは30キロ以上で走っているにちがいない。

 その後も国道41号を快調に飛ばし、10時には角川(つのがわ)のAコープに着く。またちょっと休もう。天気は快晴、消耗も激しい。冷たいカップかき氷が気持ちいい。ついでにカロリーメイトも買い足しておこう。

 店の前に座ってシャリシャリかき氷を食べていると、先ほどのロード男が追いついてきた。「いやぁ〜さっき古川をちょっとまわってきてたんだよ」…どこの方言か分からないが、独特のイントネーションで話す。なんでも名古屋方面から走ってきたらしい。今日はこの後、天生(あもう)峠を越えて白川郷を通り、そこから南下して名古屋方面に帰るという。白川郷まで僕と同じ道のりだ。抜きつ抜かれつは走りにくいなぁと思った。

 僕の方も旅程を話す。乗鞍を越えてきて、白川郷から金沢へ抜けて、そこから飛行機で東京に帰るのだというと、「ぷっ。ひ、飛行機〜!?あんたまだ若いんだから東京まで走って帰ればいいじゃん!」と笑われた。本当はそうしたい。しかし期間にも予算にもいろいろと制約があるから仕方ないのだ…。おそらく1日あたりの走行距離はウンと長いロード男には、輪行という発想自体あまりないのだろう。ロード男はウンと軽装で輪行袋自体を持っていなかった。「それにしても飛行機ってなに〜?ひ、飛行機かよ〜。ひっひっひ。」まだ言ってるよ。僕は早く出発したくなった。

 「じゃ、また先行ってます〜」と言い残し、10時20分、再び先行。とうに国道41号は離れ、国道360号(越中西街道)を走る。山間の道路ですでに登り基調になっている。この先の天生峠は、さらに傾斜がきついことは地図を見れば容易に判断できた。登坂の前にもう一回休憩したいな。なんか休憩ばかりだなぁ。けれど今日はそんなに長い距離を走らないので、時間にはゆとりがある。

 11時、天生峠への登りの入口で最後の休憩。といっても地酒を売っている売店しかないので、自販機でお茶を補給するだけだ。そしてまもなく、例のロード男が追いついてきた。このままロード男は登坂するのかと思いきや、またもや自転車を下りてきた。そして僕がフロントバッグのホルダーに入れているツーリングマップルを見てこう言った。「あれー?あんた地図なんか見て走っているのー?オレなんか家出る前にぜーんぶ頭ン中にインプットして、あとは道路の標識だけ見て走っているよー?地図なんていらないでしょ

 「へぇ、すごいですねぇ〜」…見知らぬ土地で地図なしで走るだなんて僕にはとうてい無理だ。まして「なんちゃってチャリダー」はあまり体力にもゆとりがないので、道を間違うことによる体力的・精神的消耗は致命的なのだ。しかしそれにしても面白くない。悪気はないのだろうが、だんだん不愉快になってきた。オレはそれほど寛容ではないッ。いつだったか、就職前の九州旅行のときに見た、桜島ユースの電車旅行自慢の男を思い出した。

 いっそのことロード男に先を譲りたかったが、ありがたいご講釈はその後も長く続きそうだった。それに、僕はもう休憩は十分だ。先に進みたい。ということで先行することにした。きっと峠の登坂でまた追い越されるだろう。そのまま追い越してもらいたかった。

 峠を登り初めて15分後、突然後輪が沈み込んだような気がした。ん?振り返って後輪を確かめるが、チューブはつぶれていない。パンクとはちがうのか?タイヤをさわってみると、しかし明らかに空気圧が落ちていた。ポンプで空気を入れ直すと圧がもどった。しかし走り出すとまたすぐにズブっと後輪が沈み込んでしまう。こりゃパンクだっ。98年にママチャリで秩父に行ったとき以来の旅行中のパンクだった。

 工具を取り出し、自転車を仰向けにひっくり返して後輪を確認する。原因はすぐに分かった。タイヤにホチキスの針ほどの太さの金属片がささっていた。それを引っこ抜くとあっという間に圧が抜けていった。めんどくさいなぁ。と、そこへロード男が追いついてきた。「どうかしたか?」「あ、ハイ。パンクです」「そうか、じゃあ先に行くぞ〜」「ハイ」…もう先いってくれ、いってくれ。

 パンクは面倒だったが、ロード男に追い抜いてもらって正直いってホッとした。もうロード男と顔を合わせることはないだろう。…後輪を外し、チューブを取り出し、換えのチューブを取り付ける。穴の空いたチューブはここでは直さないのだ。

 それにしても炎天下、額に汗がしたたり落ちてくる。首筋や腕もジリジリしてくる。峠を登るのはしんどかったが、生ぬるい風しか吹かず日陰もない場所で立ち止まって作業をするのもこれはこれでしんどかった。心持ちゆっくりめに作業し、ついでにカロリーメイトとハイレモンと水分補給。峠の下に広がる田んぼを見下ろして、しばらくボーッと休む。もういいかげんロード男はだいぶ先に行ってしまっただろう。でも白川郷でまた会ったりしたらやだな…そんなことを考えていた。


面倒くさい・・・・暑い・・・・あつ〜い・・・・・・・


 そして再出発。いよいよ峠の登りは厳しく(勾配そのものは乗鞍と大差ないのではないか?)、あいかわらず蒸し暑い。ひー、しんどいなぁ。それにお昼、ちゃんとしたご飯ものを食べる機会を逃したのは失敗だった。

 しかし登坂の途中で、空がくもりだし、やがて雨がパラついてきた。おぉ、またしても恵みの雨だ。例によってカッパを着ることなく身体を冷やす。うーむ、気持ちいい。

 ところがその雨は徐々に勢いを増し、ザーザー土砂降りとなってしまった。あっというまにパンツまでびしょぬれだ。すでにカッパを着込む機会は逸した。そしてあいかわらず峠の登りは厳しく、すぐに息が上がってしまう。うは〜これはたまらん。路面一面に流れる雨水が紋様を描いている。

 どうにかこうにか登坂を終わらせたとき、時刻はすでに1時50分。いったい登りに何時間かけているのか?峠の頂上付近にあった作業員用の休憩小屋に避難して、外を眺める。カロリーメイトをパクつきつつ「うーむ」とうなる。まるで椎名誠の小説の主人公みたいだ。「うーむ」・・・まぁ今日はあとはこの峠をくだるだけだし、もう少しの辛抱だ。

 雨が小雨になったのを見計らって、外に飛び出す。一気にくだるぞ!!とスピードに乗った瞬間、再び降りがひどくなった。ざぁぁぁああああ!!大粒の雨がはっきりと見えた。路面を流れること滝のごとし。ヘルメットに当たる雨の音がコンコンコンコン!とうるさいぐらいに鳴り響く。高山に入るときと同じだ。水はねしまくり脚ぬれまくり靴もビショビショ。しかしすでに峠を下り始めているのでどうしようもない。早く峠を抜けたかったが路面は極端に滑りやすくなっており、時速20キロぐらいでジワジワと下るしかなかった。こ、こりゃたまらん!

 ところがその雨も、2時45分、白川郷の集落に入る頃にはピタリとやんでいた、というか、白川郷は雨に降られた形跡がほとんどない。…うーむ。パンクしていなければ、雨にぶつからずにすんでいたかも?

 今日泊まることになっていた民宿「文六」を探し、チェックインにはまだ早いので、自転車を置かせてもらい、服を乾かしがてらその辺を散策することにした。着ている服はレーシングジャージではもちろんないが(なんちゃってチャリダーはそういうのは着ない)、化繊で水分の発散にすぐれているのでさほど水分を保持してしまうわけではない。宿に入るころにはもうちょっとマシになっているだろう。靴だけは、新聞紙をもらって中に突っ込み、宿の下駄を借りて出かける。

 集落の中心にある食べ物屋で飛弾牛コロッケやみたらし団子を食べた後、適当にブラブラする。ふぅ。夕食が待ち遠しい。

 けっきょくその後、ロード男と出会うことはなかった。やれやれ。

宿にて(別ウィンドウで開きます)


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日付
タイトル
走行距離
宿泊(予定)
まえがき
退職後初のツーリング。
8月6日 下を向いて歩こう…。
57km
乗鞍高原温泉ユースホステル
8月7日 標高2700メートルで息ばくばく。
80km
ひだ高山天照寺ユースホステル
8月8日 自転車から下りなさい1。城下町高山の買い食いコース。
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ひだ高山天照寺ユースホステル
8月9日 6年ぶりのパンクとロードレーサー。
64km

民宿「文六」

8月10日

自転車から下りなさい2。ああ日本の田舎、合掌の里散策。

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民宿「ふるさと」
8月11日 思わぬ迂回にまいった日。
81km
松井ユースホステル
8月12日 自転車から下りなさい3。金沢の町には水が流れていた。
8km
金沢ユースホステル
8月13日 そして日本海へ。
78km

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あとがき

たまには自転車を下りてはどうだい?


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