4月28日:恐山のスタントマン。

走行距離:91km
ルート :陸奥横浜〜むつ〜恐山〜大間崎
宿 泊 :大間崎バス停待合室


 朝4時40分、目が覚める。おそろしく寒い。二度寝などできそうにない寒さだ。テントなんかで寝ていたら、ヤバかったぜ。今回、防寒のことはあまり考えていなかった。

 素早く撤収の準備をし、5時20分、出発。人っ子一人いない国道279号をひたすら北に走る。もしかしたら今日中に大間崎から出ているフェリーに乗って函館に上陸できるかも。

 むつ市内を通り過ぎ、恐山に向けて登坂開始!時速10kmほどで坂を登っていく。まだ朝6時台。あわてることはないではないか。狭い路肩の左側をキリキリと登っていく。うーむ、あの角、左側から道がついているが、家が角一杯にはみ出していて見えにくいよなうを!ドン!

 その道から飛び出してきた車の側面に、自転車がぶつかった。ブレーキを握る暇もなかった。体だけが前方に放り出されるがどうすることもできない。ボンネットの上を体がゴロンゴロンと転がり、風景がグルングルンまわるのがやたらとスローで見えた。ゴロンゴロン、ベチャッ。アスファルトの路面に落ちた。どうやら頭は打っていないから大丈夫らしい、ヘルメットもかぶっているし、などと妙に頭の奥が冷静だった。そして時は流れた!

 は!オレの自転車はどうなった!?素早く視界の中に自転車を探すと、あった。路上に横転しているではないか。駆け寄ろうとするが、左膝がカクンと沈んでしまって力が入らない。自動車からドライバーが慌てて飛び出してくるのが見えた。

「大丈夫ですかっ!」
「、、、いや、とりあえず、大丈夫のようだけれど、、、」

と言いながら自転車を気にするオレ。それどころではなかろうに。軽いパニックを起こしていたのかもしれない。膝がブルブルと震えて力が入らない。が、とりあえず歩くには支障がないようだ。左の拳もじわじわと痛むが手が動かないわけではない。打撲か?

 ドライバーの家はすぐ近くだったのでそこにいく。居合わせたドライバーの友人らしき男が「こっちは逃げも隠れもできないんだから。住所連絡先教えておくよ」などとのたまうが、そんな申し出はもちろん断固拒否だ。当事者だけの適当な示談ですませてはいかんのである。

 もとよりドライバーもそのつもりだったようで、警察と保険会社に連絡をとる。しばらくすると警察と保険会社の担当がやってきた。

 現場検証や事情聴取などがあったわけだが、こちらも腰を据え、この先の旅程のことは頭のスミに追いやった。冷静に、こちらが不当に損をしないように言い分は全て主張しなければ。

 事故原因は、ドライバーが右折しようと思って最初から道路の右側を走ってきたこと。道路についているミラーを確認せずに登ってくる自転車に気がつかなかったこと。ほとんど一時停止することなく右折しようと思ったこと。警察の認定に基づけばどうやらゼロ百で向こうの過失となりそうだ。

 保険会社の人や警察と今後の手続きについて打ち合わせをし、それぞれ連絡先を交換し、やがて警察と保険会社は去っていった。ドライバーの友人がコーヒーでも飲んでいくか、などと言うが、そんな取り入るような申し出は断固拒否だ。ドライバー自身も僕の旅程を気にしているらしく、あとの相談は僕が東京に帰ってからということになった。

 そんなこんなで9時20分、進軍再開。体の痛みもましになった。結局2時間半のロスか。まあいい経験になった。

 坂はどんどんきつくなっていく。ぬー、うー、あと少しの辛抱だ。そして10時半、ようやく恐山到着。拝観料を払い、中へ。

 三途の川や賽の河原などが醸し出す不気味な雰囲気。そこかしこからガスが吹き出してもいる。うーむ、ホンマに何か出るんちゃうかというかんじだ。イタコの口寄せで知られる恐山だが、まさにあの世と地続きというなにがしかの風格があるのだ。

 1時間ほど付近を歩き回った後に、食堂でカレーライス大盛りを食べてこれからに備える。11時半出発。

 また1時間近く登坂が続くが、じきにダウンヒルへと変わった。薬研温泉をパスし、1時20分、津軽海峡に面した大畑町におりてくる。海沿いの国道279号を走るがまたまた腹が減ってきた。恐山で食べたカレーは朝飯代わり、今度は昼飯の分の空腹だ。沿道の「北見台食堂」で生アワビ丼を食べる。もはや今日中に函館に行くのはあきらめた。

 引き続き国道279号を西進し、4時頃、本州最北端の町、大間崎に到着。ご当地バージョンのソーラン節がひっきりなしに流れている。ここ大間崎は、マグロの一本釣りの基地となっているそうである。売店や土産物屋、観光センターなどが整備されており、本州最北端をウリにしているようだった。

 さて今夜はどこに泊まろうかな、、、。安宿も何軒かあるが、せっかくテントを持ってきているのだから、張れる場所はないかと探すが、また寒くなるのはいやだなぁ。「大間崎テントサイト」は風が吹きさらしでテントを張る気がしない。自転車をそこに停め、付近を歩いて探索していると、同じようにウロウロ歩いているライダー2人(HさんとMさん、それぞれアメリカンバイクで一人旅)と一緒になった。

 土産物屋のおばちゃんから「バスの待合室は誰も来ないからどう?」と言われ、その案に乗ることに。観光センターの1階部分がわりと広くてきれいな待合室になっているのだった。

 落ち着く前に、明日函館に渡るフェリー乗り場と、観光センターで確認した温泉センターの場所を確認しに自転車を走らせ、また引き返してくる。明日大あわてになるのはいやだからな。

 Hさん、Mさんと一緒にツーリングマップルにも載っている「かもめ食堂」で「大間崎丼」の大盛りを食べる。甘辛く煮たイカとホタテがたっぷりとのっかっていて、大盛りでも同じ1500円。大いに満腹、満足だった。

 かもめ食堂には別な二人組のライダーも来ていて、バイク&自転車話で盛り上がる。彼もかつてはチャリダーだったそうで、僕が自転車旅行だというと、「また自転車に戻ろうかなぁ」と言う。昔チャリダーだったライダーというのは結構見かけるが、その逆は見たことがない。なぜだろう。

 二人組ライダーと、一緒に泊まる場所を探したHさんは吹きさらしのテントサイトにテントを張るというので、僕ともう一人のライダーMさん(聞いてみると家は結構近いのだ)がバスの待合室に泊まることになった。

 夜も暗くなり、自転車から荷物をおろし、お風呂セットだけ持って先ほど偵察に行った温泉センターへ行き、夜に備えて暖まる。戻るとバスの待合室ではライダーMさんが日本酒を飲んでいる。海を見ると、対岸の灯りが見える。海を渡れば北海道だ。僕も日本酒を一杯いただき、二人で人生を語った(二人とも同い年)。

 意外に待合室の中は暖かい。心地よい酔いの中で、今日一日の記録をつけ、そして寝る。

次のページへ
前のページへ
自転車旅行トップへ戻る

日付
タイトル
走行距離
宿泊
まえがき
シーズン到来、北上旅行再開!
4月27日 下北半島は秋の気配。 76km JR有畑駅待合室
4月28日 恐山のスタントマン。 91km 大間崎バス停待合室
4月29日 念願の北海道上陸。 17km -
       
5月3日 田舎のオキテ。 114km エクセルインホテル
5月4日 洞爺湖の花火。 71km 昭和新山ユースホステル
5月5日 支笏湖畔の異次元空間。 64km ライダーズハウス「樽前荘」
5月6日 北の大地の距離感。 59km
あとがき 飛行機なくして旅行なし。

トップページ自転車旅行に出かけよう自転車に関する私的考察始末記管理人よりメルマガGPS