3月20日:ずっこけるな、三人組の大競争。

走行距離:49km
ルート :桜島〜(フェリー)〜鹿児島〜指宿
宿 泊 :圭屋(たまや)ユースホステル


 いよいよ桜島〜指宿、誰がいちばん早く着くか勝負!

 選手紹介。
●ヒッチハイカーN君…旅行の予算と18切符を節約するためにヒッチハイク導入。車がうまくつかまればスムーズに行くが、つかまらなければ旅は全く前に進まない。
●18切符A君…正統派鈍行列車旅行。一人旅の一つの王道を行く。必ずスケジュール通りに移動できるが、田舎では電車の本数が極端に少ない。
●なんちゃってチャリダーは僕…野宿未経験の疑似チャリダー。巡航速度は最も遅いが、無駄な待ち時間もないし、渋滞に巻き込まれることもない。

 さあ、誰が最も早く指宿まで着くのだろうか?これを読んでいる皆さんにも予想していただきたい。桜島から鹿児島まで15分おきに出港しているフェリーに乗るのは全員同じ。鹿児島から南に指宿まで、約50kmというところ。勝負の行方やいかに!?

 朝食を頼まなかったヒッチハイカーN君が先発した。いきなり差をつけられる。朝食を終え、同時に宿を出たのは僕と18切符A君。しかしフェリーの港までの道のりは、当然僕の方が早く走れる。18切符N君より一本早いフェリーに乗船。

 15分ほどで対岸の鹿児島市に上陸。ただちに県道227号を南下する。市街地だけあって車が多い。ひるまずヒッチハイカーN君を追うぜ!と思ったら、走り始めて10分もしないうちに、227号沿いで大型落書き帳に「いぶすき」と書いて前に掲げているヒッチハイカーN君を発見した。まだ車がつかまらないらしい。「おさきぃ!」一声かけて、N君の前を走り去る。よし、1機撃墜だ。追いつかれるか?逃げるぞッ。

 県道227号に続き、海沿いの国道226号を爆走する。信号や交差点はまったくない。226号に沿って、内陸寄りには18切符A君が乗るであろうJR指宿枕崎線が通っている。まだ電車には追い抜かれていない、はず。

 空がくもってきた。これは一雨くるか…?カッパを出して着るゆとりはないぞ。その前に指宿だッ!自然とペダルを回す脚にも力が入る。

 休憩をいっさい取ることなく走るので、平均速度は時速20km以上をキープしている。こんな巡航速度は都城で日帰りチャリダーと勝負して以来だ。しかし車に乗ったヒッチハイカーN君や18切符A君の電車が時速20kmなはずはあるまい。無事に乗られたら最後、追いつかれ、追い抜かれる一方なのは目に見えている。急げッ。

 そして指宿市に入る直前、ちょっとした峠越えの登坂中、向こうからチャリダーが1人下ってくるのが見えた。手を挙げてお互いあいさつしようとしたそのとき。
「あーーーー!」「あーーーー!」
「マジで〜?」「うわ〜〜?」
 二人同時に叫んでいた。何と、指宿方面から走ってきたのは、3日前に宮崎のユースで一緒だったSさんだった。
「お〜〜〜!」「お〜〜〜!」
 もう一度叫んだ。
「めっちゃ偶然や〜」「えー!すげ〜〜〜」
「もぉ、日南海岸めっちゃよかったで〜」「いいなぁ〜、都城は、何もなかったのになぁ〜」
 宮崎で合流するはずだといっていたSさんの連れ2人も続いて下りてきた。2人ともキョトンとしている。
 Sさんも僕も不思議な興奮状態。短い時間だったがこの先の道のことを情報交換し、やがてお互い反対方向に走り去っていった。いや〜、こういうこともあるんだなぁ。

 けっきょく鹿児島から2時間半ほど走ったところで指宿駅前に到着した。果たして彼らは先に着いたかまだ来ないか。PHSから彼らの携帯電話にかけてみるが、応答なし。うーむ、どうなんだ?どうなんだ?
 しばらく指宿駅前で待ってみる。もし18切符A君がまだ着いていないのなら、ここから出てくるはずだが…。待っているうちに雨がぱらついてきた。と、そのとき、僕のPHSが鳴った。

ヒッチハイカーN君「もしもしー」
僕「もしもし!今どこっ?」
ヒッチハイカーN君「あー、今、二人で砂蒸し風呂に入ってきたところですよー」
僕「えーーー!」(う〜ん、まけた…

 砂蒸し風呂とは、指宿名物、海のすぐ側に温泉が湧いているために海岸の砂浜全体が暖かく、この砂の中に首を残して砂に埋めてもらうというもの。テレビなどでご存知の方も多いかと思う。そして砂蒸し風呂会館は、今日僕が泊まる予定のユースの向かいにあるのだ。ユースは駅よりも南にある。つまり、すでに彼らは僕の行き先に先回りしていたということ。

 砂蒸し風呂会館まで自転車をこいでいくが、彼らの姿は見えない。とりあえず、ユースに荷物だけ預け、さて砂蒸し風呂行くか…と歩きはじめたら、前方にヒッチハイカーN君と18切符A君が並んで歩いているのが見えた。走って追いかける。
 いちばん先に着いたのは、なんとヒッチハイカーN君だという。次が18切符A君、最後に僕。順当に行けば電車が先かと思ったけれど、いやはやお見事ですよヒッチハイカーN君。3人並んで記念撮影。

 この後、N君もA君も北に引き返すという。別れを告げ、僕は砂蒸し風呂に入る。

 受付で精算し、浴衣を借りる。タオルは持参。脱衣所で服を全部脱ぎ、浴衣一枚になって海岸に出る。屋根つき柱なしの半野外の特設スペースにたくさんの顔が埋まっており、シャベルを持ったおばさんたちが砂をかけて回っている。僕も空いている「寝床」スペースの一つに身を横たえ、タオルを頭の下に敷き、砂で埋めてもらった。

 ぬ、なんちゅー極楽やねん!心地よい圧迫感、適度な熱さ、全身の力が抜けていく。すぐそこからは波の音…。う〜〜ん、ん〜〜〜〜。声にならない声、脱力のため息が自然にもれる。ウトウトと眠くなる。…隣からは気持ちよさそうなイビキが聞こえてくる。…おっさん、ヤケドすんなよ。しかし眠ってしまうのも分かる心地よさ……。すぅすぅ…。

 結局20分ほど埋まったであろうか、砂の中から立ち上がり、身体や浴衣についた砂をはたきおとし、シャワーを浴び、浴衣を改修ボックスの中に入れ、今度は普通の温泉大浴場につかる。うーむ、極楽第二段。んーむ。ンーむ……。

 はふー、気持ち良かった。いやぁ、来てよかったよ本当に。二日続けての温泉。なんたるぜいたく。


<宿にて>

 夕飯が出来るまで、ユースの広々とした談話室でゴロゴロするが、誰も来ない。だ〜れも来ない。新聞読んだりテレビ見たり地図見たり。やがて夕飯になったが、なんと夕飯も僕一人。僕と同室で、登山装備の高校3年生二人組がいたけれど、彼らは外で食べてきたという。はぁ〜〜今日は一人か〜。
 と思ったら突然部屋の外がガヤガヤと騒がしい。ペアレントさんが入ってきていわく、突然20名以上の団体が来ることになったらしい。団体さんか〜。一人旅とかはおらんのか〜?

 あっという間に夕飯をたいらげ(一人で食べると、本当に一瞬)談話室でウダウダし続ける。やがてペアレントさんがやって来て、いろいろ世間話。そうしているうちに、同室の高3二人組が入ってきた。

 4人で阪神タイガースを強くするにはどうすればいいか、阪神タイガースの何がいけないのかについて話し合った。何を隠そう、僕も隠れ阪神びいきなのだ。1992年の快進撃あわや優勝か?という年以来(亀山、新庄、久慈、オマリー、パチョレック、和田、真弓、八木、仲田、湯舟、田村…うーむ現役もいれば、去った人もいるなぁ)ひそかに応援している。けれど年々優勝しそうなかんじが薄れていくので、だんだん阪神の肩を持つのもしんどくなってきてる…。
 けっきょく、いっぺんファンが阪神を見放す必要があるという結論に達した。

 ペアレントさんが、現在の不況の原因について自説を披露。景気が回復しないのは、携帯電話のせいだという。たしかに携帯電話の普及の広がりはものすごいし、市場も巨大なものだろう。しかしみんな携帯電話にばく大な料金をつぎ込み、モノを買う余裕がなくなってしまう。じゃあ携帯各社がもうかっているかというと、激しい値下げ競争によって売っても売っても利益が上がらない。ハテ、みんなが注ぎ込んだお金はいったいどこへ?という説だった。

 高3二人組が通う高校は、なんと、東大合格者日本一を誇る名門私立K校だった。一人は4月から東大、もう一人は早稲田に行くという。ほほぉ〜。K校といえば、勉強バリバリ、そして全校挙げて体育会系、運動もバリバリというイメージ。しかしどうも周囲からは世間知らずのガリ勉君と思われているのか何なのか、二人とも学校名はあまり言いたがらなかった。

 いろいろな予断をもって見られてしまうのが進学校。オレもいわゆる進学校と呼ばれる中学、高校にかよっていた。別にどの学校を出たからといって、それだけでエラい訳ではない。ペーパーテストがよくデキるというだけのことなのだが…。
 そして、ペーパーテストほど、多大な労力を求められるわりに得られるものが少ない、そしてムナしいものはないと思う。まるで無意味だとは言わないけれど…。

 4月から東大文科一類(法学部)に入るというこの男、勉強がデキるだけで驕っている連中に大いに怒っていた。彼も官僚とか、指導的な役割を担う立場に最も近いポジションに今いるわけだから、今のまっすぐさを失わないでもらいたい、と思った。


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日付
タイトル
走行距離
宿泊
まえがき
ついに、このときが。
3月3日 キミは、登りきることができるか。 100km 箱根レイクヴィラユースホステル
3月4日 土砂降りの雨、一車線の人生。 106km 焼津セントラルホテル
3月5日 東海道しっかりせよ、怒り号。 100km 浜名湖ユースホステル
3月6日 一筋に、一筋に、無敵の男。 95km 愛知県青年会館ユースホステル
3月7日 天からミゾレの関が原。 110km 近江八幡ユースホステル
3月8日 転勤族の故郷とは。 83km 実家
3月9日 作戦変更。 実家
3月10日 父子伴走。 71km ビジネスホテルともえ
3月11日 瀬戸内旅情で休んだ。 82km ユースホステル浄運寺
3月12日 口角泡を飛ばした夜。 93km 倉敷ユースホステル
3月13日 決断のとき。 94km 瀬戸田ユースホステル
3月14日 春のうららの海だわさ。 89km 松山ユースホステル
3月15日 九州上陸作戦。 35km 別府ユースホステル
3月16日
神が舞い降りた日。
126km
シティホテルプラザ延岡
3月17日 ひとり上手と呼ばないで。 88km 宮崎県婦人会館ユースホステル
3月18日 ダサいキツネと依怙地のタヌキ。 59km 都城ユースホステル
3月19日 桜島だ、いよいよ。 69km 桜島ユースホステル
3月20日 ずっこけるな、三人組の大競争。 49km 圭屋(たまや)ユースホステル
3月21日 佐多岬はるかなり。 22km 錦江湾サウスロードユースホステル
3月22日 決戦、あばよ、早くー。 58km JR志布志駅待合室
3月23日 さらば、さらば。 1km 大島汽船「ありあけ」2等席
3月24日
日常へ。
34km
あとがき オレの勲章はオレのもの。


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