3月16日:神が舞い降りた日。

走行距離:126km
ルート :別府〜延岡
宿 泊 :シティホテルプラザ延岡


 別府ユースを出る直前、連泊中の塾の先生(九州出身)と、やたらと陽気な関西ねーさんと話す。

 別府から宮崎に向かって南下するために、国道10号と国道328号がよく使われるという。距離は長いが比較的走りやすいのは10号、距離は多少短いが厳しい峠道なのは328号らしい。ここは無難に10号で行こう。2週間近く前、箱根を登るとき旧道を選んだおかげで苦労したことを思い出したのだ。・・・そうか、箱根越えは、もう2週間も前のことになるのか。

 別府から宮崎の間にはユースホステルが全くない。しかし宮崎までは200km以上ある。途中でどっかに泊まらないとなぁ。どこぞの宿を探さないとなぁ…まあ、走ってから考えよう。

 別府を出発し、国道10号沿いにひたすら走る。大分を通過するとまもなく山道。犬飼町で、一度佐伯に向かって海寄りに迂回する10号と、そのまま内陸の山中を南下する326号の分岐点にさしかかった。自転車を止め、もう一度考え直すが、おおむね鉄道沿いに進んでいける10号を、当初の予定通り選んだ。

 あまり車の通ることのない10号を、静かに走り続ける。途中、いたるところで片側通行止めに出くわし、いい迷惑。「情報BOX」という、光ファイバーケーブルの埋設工事のようだった。道路は単なる車の走り道ではありません、情報インフラの一部でもあるんです、というのが国土交通省の主張だ。
 片側通行の連続に、山の中のアップダウン。ふだんならばヘトヘトに疲れ果ててもおかしくないような状態である。中ノ谷峠を越え、番匠川につきあたる。この川に沿って下流に向かえば佐伯市。だが、今日はまだまだ全然走り足りない。もっといける。佐伯には下りずに再び山中へ。

 山の中のアップダウンは果てしない。さすが宗太郎越えなどと、わざわざ名前がついているだけのことはある。いつまで続くというのか。先が見えない山道を走るほど、孤独なことはないのだ・・・。

 しかし、この日は何かが違った。

 
「今日はめっちゃ走れそうや」「どこまでも行けるんちゃうか」「こわいモンなしやで」というイメージが強烈に湧いてくる。峠では重くなるはずのペダルを回す両脚も、まさに軽快そのもの。天から「神」が、両脚に舞い降りてきたかのようだった!

 果てしないアップダウンを、ズバズバズバーと越えていく。さーこい。いくらでも登ってみせようぞっ。かかってきやがれ。どーだコノヤロぉ、オラオラオラぁ。頭の中もカーッと燃え上がってくる。登坂意欲満々。ひかえぃひかえぃ!誰にもこのわしを止めることはできぬ !

 そしてとある急な登坂を終え、宇目というところに着いたとき、どうやらここが峠の最高地点であるような気がした。

 その推定最高地点に、ちょうど食堂があったので遅い昼飯を取ることにした。この時点ですでに80km以上走っている。いつもならもうそろそろこぐのやめようか、という距離。しかし神が宿った僕は、まだまだ走る気満々。団子汁を頼んでいる間、食堂のおばちゃんにこの先の道の様子を訊いてみた。
「自転車で別府から来たんですけど、まだこの先には登りがあるんですか?」(たぶんあらへんやろな)
「いいや、ここがいちばん標高が高いから、この先は下りばかりよ」
 …やはりそうだったか。もうすでに登りはほとんど終わっていた。なんか、勘どおりだ。一時的に感覚が研ぎ澄まされたのかも?ランナーズハイ。

 団子汁をたいらげ、いざ出発!
 …はたして10号は、そこから先はダウンヒルの連続だった。自動車もまったく通らない。
 ……僕は……風になった。時速50kmで駆け抜ける。ときどき出くわす登りも、ダウンヒルの余勢を駆って次々にクリア。

 そして、自分との対話が始まった。オレはなんで鹿児島まで走るのやろ?なんで自転車こいでんねやろ?なんで旅をするんやろ?なんのために日々暮らしてるんやろ?そして、なんのために生きてるんやろか??
 達成感、満足感、克己心、自己の存在の意識、限界を知り、限界を超える、何かをやり遂げ、何かを残す、生きるために生きるにあらず、人生しょせんは手段に過ぎぬ 、ああ燕雀いづくんぞ鴻鵠の志を知らんや…。

 とまあ、短時間のうちにグルグルグル〜〜と思念の渦が自分の中で巻き起こるのだった。別に何か明確な解答を得られたわけではないけれど、なんとなく悟りを開いた気分で心地いい。ぷはぁ。

 メーターを見ると、いつの間にか120kmを超えていた。今回の旅行で最長距離である。脚はなんともない。けどまぁ、今日はこれでカンベンしといたろか。なんや、雨もしょぼついてきよったし。
 延岡駅前の電話ボックスのタウンページで宿を探し、駅の近くのビジネスホテルに泊まることにした。うーむ、またしてもビジネスホテルか…。やっぱ、次回のツーリングのときはマジでテント買うたろ。
 
 宿の部屋に置いてあった駅前案内地図を頼りに、近くのちゃんこ屋で、ちゃんこと雑炊をたいらげ、コンビニでお菓子を買い、これも部屋で食べ尽くしてしまった。さて、おやすみ。


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日付
タイトル
走行距離
宿泊
まえがき
ついに、このときが。
3月3日 キミは、登りきることができるか。 100km 箱根レイクヴィラユースホステル
3月4日 土砂降りの雨、一車線の人生。 106km 焼津セントラルホテル
3月5日 東海道しっかりせよ、怒り号。 100km 浜名湖ユースホステル
3月6日 一筋に、一筋に、無敵の男。 95km 愛知県青年会館ユースホステル
3月7日 天からミゾレの関が原。 110km 近江八幡ユースホステル
3月8日 転勤族の故郷とは。 83km 実家
3月9日 作戦変更。 実家
3月10日 父子伴走。 71km ビジネスホテルともえ
3月11日 瀬戸内旅情で休んだ。 82km ユースホステル浄運寺
3月12日 口角泡を飛ばした夜。 93km 倉敷ユースホステル
3月13日 決断のとき。 94km 瀬戸田ユースホステル
3月14日 春のうららの海だわさ。 89km 松山ユースホステル
3月15日 九州上陸作戦。 35km 別府ユースホステル
3月16日
神が舞い降りた日。
126km
シティホテルプラザ延岡
3月17日 ひとり上手と呼ばないで。 88km 宮崎県婦人会館ユースホステル
3月18日 ダサいキツネと依怙地のタヌキ。 59km 都城ユースホステル
3月19日 桜島だ、いよいよ。 69km 桜島ユースホステル
3月20日 ずっこけるな、三人組の大競争。 49km 圭屋(たまや)ユースホステル
3月21日 佐多岬はるかなり。 22km 錦江湾サウスロードユースホステル
3月22日 決戦、あばよ、早くー。 58km JR志布志駅待合室
3月23日 さらば、さらば。 1km 大島汽船「ありあけ」2等席
3月24日
日常へ。
34km
あとがき オレの勲章はオレのもの。


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