5月4日:ハンガーアウトいろは坂。

走行距離:約90km
ルート :桐生〜大間々〜足尾〜日光
宿 泊 :日光大谷川ユースホステル


 さあ、今日はどうしようか?昨夜ツーリングマップルを見ながら考えたのだが、ここまで来たからには「●●まで行ってきた」といった場合、とてつもないかんじのする場所がよかろう。それだけインパクトのある場所をだね。そこで距離的にも日光が手ごろではないかと考え、この日の目標とすることにした。小学生の頃に修学旅行で来て以来だ。キャリアに再びリュックをくくりつけ、走り始める。

 桐生から西に向かい、やがて国道122号にぶつかる。122号を道なりに走れば、細尾峠を越えて日光に入ることが出来る。大間々から東村へ向かって走るが、徐々に傾斜が増していく。うむ、この先には峠越えが控えておるからな。

  と、そのとき、自転車の後輪でタン、タン、タンと異音がするのが聞こえてきた。な、なんだー!?故障か!?ややどきどきしながらも後ろを振り向くと、、、、うっ!と息を呑んでしまったッ!なんと、キャリアにくくりつけておいたはずのリュックがない。荷造り用の黒いゴムバンドがちぎれており、異音はちぎれたゴムバンドの先端が後輪のスポークに弾かれる音だった。ではリュックはいずこに?走っている途中で脱落したことは間違いない。あわてて、しかしゆっくりと、もと来た道を引き返す。路面を注意深く観察しながら、、、、あ、あった!あった!オレのリュックだ。ちぎれたゴムバンドと一緒に路肩に落ちている。よかったぁ。自分のあまりのマヌケさに、大いに自己嫌悪に陥り、かつ人に見られていやしないかと、周りを見渡してしまう僕であった。

 大間々から東村へ入り、徐々に傾斜が急になってきた。まあこの先は渓谷で、その先には峠越えが控えているからな。徐々にギアを軽くし、きりきりと坂を登っていく。しかしやはり最適なギア比を見つけ出すまでがまだ時間がかかる。傾斜のわりに重くしすぎたり軽くしすぎたり、踏み込みよりもむしろギアチェンジに気を取られてしまう。ぬー、息があがってきた。お尻の肉が少ない僕は、フトモモから尻にかけても疲れやすい。そして、とうとう自転車を降りて手押しをしてしまうのである。ひー、はー、ひー、はー。

 トボトボと歩いていると、ロードレーサーで上から走り降りてきた人に「がんばってくださーい!もうすこしですよー!」と応援されてしまった。手押しをしている最中に応援されると、非常に恥ずかしい。

 やがて、もはや徒歩のスピードと変わりないではないかという程度までキツい坂になったところで、草木ダムのダム湖である草木湖にたどりつく。自転車を下り、売店で食糧補給、飲料補給。しかし、地図を見るとまだまだ峠までの道のりは遠い、、、、。

 登坂再開。またまた県境を越え、栃木県の足尾に入る。かの有名な足尾銅山のあったところだ。銅山跡ということで過去の史跡が残っているようだが、残念ながら観光しているゆとりはない。しかし腹が減ってきたので足尾の観光センターで昼飯を食べることにする。豚生姜焼き定食大盛りと、フルーツパフェ。腹いっぱい、である。それにしても明治時代の鉱毒事件の後、足尾の人々はどうやって生計を立てていたのだろうか、、、、???

 登坂再開。あと少しで峠だ。あと少し、、、、。何度頭の中で「あと少し」と唱えただろうか。ようやく細尾峠の「日足トンネル」入り口にたどりついた。トンネルの中の歩道をゆっくりと登るが、やがてトンネル自体が日光に向かって下りに転じた。車道に飛び出さないように、歩道から脱落しないように、ブレーキを利かせながら慎重にトンネルを進んでいく。そして、ぷはー!トンネルを抜けた!あとは豪快な下り坂だー!というわけでまるでジェットコースター、一気に急坂を駆け下りる。

 やがて国道120号に合流。まだ2時半だ。このまま日光の市街地に入っても、時間が余ってしまうなぁ?よし、ここは一つ、小学生のとき修学旅行で見た「華厳の滝」を見に行こう!でもそのためにはあの「いろは坂」を登らなければならない。しかしまあ何とかなるでしょう。ということでいろは坂の出発点「馬返」で小休止した後、はるか頭上まで続く第二いろは坂(上り専用)を登坂開始!

 これまでの峠道のように、徐々に勾配がきつくなるというのではないぞ。いきなり容赦のない激坂だ!しかも激坂のヘアピンカーブが延々と続く。2つか3つカーブを曲がった時点で早くも登坂を後悔し始めた。やめるなら今のうち、、、???いやいやいや、ここでやめては英雄になれないではないか。手押しをしようとするまいと、とにもかくにも実際にそこまで「行く」というのが大事なのだ。オレは負けん。

 しかしながら5つほど坂を登った時点で早くもペダルが踏めなくなって手押しをしてしまう。ギアを軽くしてもいいのだが、あまりに軽くしても、こいでもこいでも前に進まなくなってしまうのだ。それならば歩くスピードと変わらないだろう、と。ペダル踏む→手押しして息を整える→ペダルを踏む→手押しして息を整える、の繰り返しでどうにかいろは坂を攻略できるのではないか?がんばれオレ。

 うーむ、次のあの角で自転車を降りてまた手押ししようかな、などとペダルを踏みながら考えていたそのとき、一台の車が通りかかる。僕を追い越しざまに車の窓が開き、中に乗っていた男が手を振って「がんばってくださーい!」と声援を送ってくれた。「・・・・・・!」無言(息があがっている)で手を振り答える僕。直前までもう自転車を降りようと思っていたのに、声援を受けて急に元気が出てきた!よし、もっともっとこいでいくぞッ!

 その後も次々と車に追い抜かれたが、そのうちの何台かは窓を開け、登坂中の僕に声援を送ってくれる。声援を受けるたびに、不思議なことに力がみなぎるのだった。心理的な高揚感が、これほどまでに自分を助けてくれるとは知らなかった。先ほどまではいろは坂の上までたどりつく自分のイメージなど全くわかなかったのに、急に達成後のイメージが膨らんでいく。ぐいぐいと坂を登り、ヘアピンカーブをクリアしていく。

 しかしその精神パワーにもやがて限界がやってきた。どうしようもない、逃れようのない空腹感に襲われたのである。しかも食料を全く持ち合わせていないぞ!ほんの3時間前、たらふく昼飯食べたのに。食料を持ち合わせていないがゆえに余計に空腹感がつのり、物理的のみならず精神的にもまったくペダルを踏み込めない状況に陥ってしまった。

 坂の途中の展望台に自転車を止めて休んではみるものの、いくら休んでも「よし、それじゃあそろそろ行くか!」という気力がまったく湧いてこない。これには参った。マジまいった。周りは車を降りて記念撮影しているグループでいっぱいである。つのる疎外感。眼下にはこれまで登ってきた坂がウネウネ。そして上方に見える坂道の終わりは見えない。

 うーむ、とりあえず何か食べるものがほしい。ここまで登ってきて、引き返すというわけにはいかないのだ。しかし周りには売店も何もない、、、。うーむ。そうだ!一計を案じるオレ。車で登ってきた、とあるカップル発見。カメラを手に、シャッターを押してもらいたそうにウロウロしている。駆け寄る僕。
「シャッター押しましょうか?」
「あ、助かります!お願いします!」大喜びのカップル。
「はい、サン、ニイ、イチ」パシャッ。
「どうもありがとーございます!」
「いやあ、ハハハハ。」
カメラを手に持ち、カップルに近づきつつ「あのー、今自転車でいろは坂登っているんですけどー」
ここが勝負どころだ。「な、なにか食べるものとか余分にありますか?お腹がすいてすいてしょうがなくて、、、」
「え!?あ、ああ、えーと、はいはい、ありますよ、飴とかでもいいかなぁ?」
 一瞬あっけにとられたカップルだったが、けっきょく飴を十粒ほど恵んでくれたのだった。「ありがとーございます!」カメラを返す僕。悪人であった。

 おーし、飴ゲットー!さっそく飴を十粒全て口に頬張り、一気にボリボリと噛み砕く!一粒ずつハブハブなめるなどという悠長なことはやってられない。早く早く糖分補給〜!おーし、飴玉十粒元気百発!再び登坂意欲が湧いてくる。グイグイグイとつづら折りの登りヘアピンカーブをクリアしていく。

 やがて明智平なる展望台に到着。観光センター発見!さっそく観光センター内の食堂に駆け込む。注文は、カレーライス。あまりの空腹顔だったのか、食堂のおばちゃんが言う。「ずいぶん疲れた顔ねー」「今、いろは坂を自転車で登ってきたんですよ」「アラマー、すごいじゃない。はい、おまけしてあげるね」カレーライスを大盛りにしてもらってしまった。

 明智平から先はさほどきつい登りでもない。4時半、ようやく華厳の滝に到着。登坂開始から実に2時間が経っていた。ツーリングマップルによると距離にしてわずか8.5km。それでも午前中に登ってきた細尾峠の数倍疲れた。自転車を止め、エレベーターで華厳の滝を見上げる展望台まで行く。コンクリのトンネル通路を抜け、そして眼前にそびえる華厳の滝!滝つぼから漂ってくる飛沫が顔に冷たい。小学校時代の修学旅行以来の感動だ。あのときはバス遠足だったが、今日は、自転車で来ている、、、、!!記念撮影をし、不思議な感動を胸に、華厳の滝を後にした。

 さてそろそろ空も薄暗くなってきた。日光の市街地まで下りて、今日の宿を探さなくては。第一いろは坂を下り始める。がしかし猛烈に寒い!まあ標高が高いからなあ。カッパを着込み、下り再開。しかし急な下りでなおかつヘアピンカーブがきつく、スピードには要注意だ。まかり間違えば坂の外に転落してしまう。ブレーキを利かせつつ。おっかなびっくりで下っていく。馬返まで戻った後は、国道120号を東に向かって一直線に進む。とりあえず目標はツーリングマップルに載っている「日光大谷川(だいやがわ)ユースホステル」だ。

 途中交番で道を聞いたりしつつ、どうにかこうにかユースにたどり着くことが出来た。飛び込み宿泊なので夕飯は出ない。チェックインを済ませ、近くの中華料理屋でラーメンと餃子を食す。ふう。ユースの風呂に入り、疲労困憊の中、寝る。

日付
タイトル
走行距離
宿泊
まえがき
マウンテンバイク購入。
5月3日
慣らし運転。
約100km
パークイン桐生
5月4日 ハンガーアウトいろは坂。 約90km 日光大谷川ユースホステル
5月5日
強引矢の如し。
約180km
あとがき
「遠出」から「旅行」へ。

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