| 僕が初めてバイトをしたのは高校生の頃。奈良の東大寺でお盆と正月にお寺の雑用をやった。ただ、これは期間限定のほんのささやかな仕事だった。したがってバイトというかいわゆる「労働」歴は大学生になってようやく始まる。 大学に入って最初の1年半は、もっぱら肉体労働ばかりやっていた。1日でまとまったバイト代になるからだ。土日を中心に、ビルの定期清掃会社でハイエースに乗せられて早朝からあちこちの現場に出かけた。 ポリッシャー(グルングルンとパッドの部分が回る床清掃の機械)を動かしたりスキージ(クルマのワイパーのような幅広のゴムベラ)を切って窓ガラスを掃除したり、トイレにはいつくばって床に吐き捨てられて固くこびりついたチューインガムを金ベラではがしたり、気温は40度に届こうかという工場の生産ラインの大型機械の中に入り込んでサビ落としをしたり、ビル内部のフロアの解体で出たゴミ(コンクリのカタマリなど)を搬出したり、防塵ゴーグル、防塵マスク、ヘルメット、ゴム張り手装備で、高層ビルの建築現場でセメント吹きつけのカスをまとめて袋詰めにしたり、だだっ広いデパートで、丸々1フロア分の天井の蛍光灯を一晩中交換したり…いやはや何ともハードなバイトだった。 体を使うわけだから必然腹も減るというものだ。中学・高校時代まではわりと食が細かった僕だが、食欲は年々アップしていった。 その後事務仕事もやりたいよなーと思うようになり、旅館住み込みの短期リゾートバイトを除けば、肉体労働の世界から離れることになる(肉体労働は時間単価が安いし…)。フリーターのときもデスクワーク。市役所でもデスクワーク。ただ、食欲だけは変わることなく伸びていった。 そして今は再び自転車便(メッセンジャー)という食べてナンボの肉体労働の世界に身を置いている。正直言って、大学生のときにやっていた肉体労働よりも自転車便の方がはるかにしんどい。1日あたりの消費カロリーは勤め人だった頃の倍以上ではないだろうか。 それにしても、だ。コンビニにせよ弁当屋にせよ店で食べるにせよ、どうしてこんなにカロリーに乏しいモノばかり置いてあるのだろう。みんなこんなんで足りるのか?ちゃんと仕事できてるのか?(デスクワークでも) とにかくほんのお情け程度の量しかなく、そのくせ結構値が張るものばかりだ。カロリーあたり単価がおそろしく高い。最近はカロリー表示されている食べ物が多いが、それらはおおむね「この食品はこれだけしかカロリーがありませんよ」というアピールのためであり、買う方も「おお、この食品はこれだけしかカロリーがない。安心安心」と言って買うのだろう。何だかヘンである。 デスクワークの世界では「体を動かす→カロリーを消費する→食事する」という健康なサイクルが崩壊しているので、このようなおかしな現象が起きる。やせている方がいい、カロリーは少ない方がいい、ご飯は食べない方がいい(仕方なく食べている)、塩分は少ない方がいい、脂肪も少ない方がいい、味は薄い方がいい。 ジャンクフード店や牛丼屋は満腹になるイメージがあるが、それはまやかしである。ジャンクフード店ではハンバーガーではなくポテトとドリンクで一時的にお腹がごまされるにすぎない。牛丼屋だって使われている肉は低級のコマ肉ばっかりで、量もほんのわずか、ご飯の上に貼り付いているだけである。商店街の肉屋で売られている肉に比べれば、その質やコストパフォーマンスの低さは明らかだ。 安価に大量にカロリーを取るには今や自炊は欠かせないものであり、自炊とはカロリーを抑えるためにするのではなく、大量にカロリーを補うためにするものであるといえる。定食屋程度の食事では全然物足りない。 ちなみに僕の場合、自転車便(メッセンジャー)の仕事があった日は、米1合半、肉は300〜400グラムは食べないと、立ち直れない。眠気と戦いながら夕飯を作っている。しかし、僕が家に帰る頃(夜9時頃)にはもう商店街は閉まっており、スーパーで高い肉を買わなければならないのが困ったところだ。豚コマで100グラム133円とは、ベラボウな価格ではないか。商店街の肉屋ならば、豚コマであれば100グラム78円、豚肩でも88円、鶏肉にいたっては50円台である…。 ただまあ「体を動かさない→カロリーを消費しない→食事しない」という不健全なサイクルでは、なるほど安価に大量のカロリーを取るというニーズがないのだろう。そのような人向けには、カロリーあたり単価が高く、しかし全体カロリーは少ないモノが売れるわけだが、そもそも大量にカロリーを取る必要がないので、食費は肉体労働者よりも少なくてすむ。 賃金の安い肉体労働者の方が食費がかさむとは、何とも皮肉なものである。 |
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