| 大学生のときまでは、もっぱらママチャリを乗り回していた。3段変速すらついていない、本当のママチャリである。そしてママチャリは日常の足であるだけでなく、旅行の足でもあった。全身ブラックに身を包んだシブいママチャリだった。 ママチャリで都心まで往復、ママチャリで房総半島、ママチャリで秩父、ママチャリで箱根のふもと…およそママチャリの範疇外の旅行を繰り返していた。ママチャリを買い換えようなどという考えは全然なかった。ママチャリで何もかも事足りるじゃないか。何せ、ママチャリには最初からカゴがついているし、荷台もついているし、スタンドもついているし、ハンドルも操作しやすい。ギアもないし、まさに己の力だけで進まなければならない。 ママチャリで旅行すること自体に誇りを感じていた。ママチャリこそが自転車の原点でアル。一生ママチャリでいくぜ。クルマの免許を持たない、携帯電話を持たない、そしてスポーツサイクルを持たない。これは大学生当時の自分の三箇条の「国是」だった。 その歴戦の勇士であるママチャリを盗まれたのは大学4年生のときだった。それから半年後に、マウンテンバイクを購入し、そして現在旅行で使っているランドナーへとつながっていく。一度これらの専用車の乗り味を覚えてしまったら、もはやママチャリに戻ることはできない。一度携帯電話を持ってしまったら、二度と手放せないのにも似ている(大学4年のとき、バイトで必要になってPHSを買ってしまった)。 では、もしあのときママチャリを盗まれなかったら、どうしていただろうか?…たぶん、あのママチャリに乗ってそのまま旅行をしていたと思う。東京から実家(関西)まで、ママチャリに乗って帰っていたと思う。一度箱根のふもとまでママチャリで行ったのは、ママチャリで箱根を越えることを想定して偵察するためだった。 ママチャリを盗まれていなければ、このサイトに載っている旅行の大半も、きっとママチャリで果たされていたにちがいない。通勤の足も当然ママチャリ。ママチャリのヘビーユーザである。 さて、今、ロードレーサーやランドナー、マウンテンバイクなどに乗っているチャリダーも、ママチャリに乗ったことがない人はいないと思う。だから、チャリダーは、ママチャリで遠出している人を見ると、みんな懐かしい気持ちになるのだろう。それは、大人になってから自分がかつて通っていた小学校のグラウンドを眺めるときの気持ちに似ているのではないだろうか。 たぶん自分はこの先、ランドナーに乗って、ママチャリでは考えられないようなペースで走行距離を伸ばし、やがては日本全国を走ることになると思う。けれど、そのときもやっぱり、自分がかつてママチャリで旅行していたということは、忘れていないと思うのだ。そしてママチャリで旅行をしている人を見かけると、まぶしさとうらやましさを感じるのだ。 |
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